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東京地方裁判所 平成4年(行ウ)155号 判決

原告 西崎毅

被告 国税庁長官 人事院 人事院事務総長 国

主文

一  本件訴えのうち、被告国税庁長官及び被告人事院に対する訴えをいずれも却下する。

二  原告のその余の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一原告の請求

一  被告国税庁長官(以下「国税庁長官」という。)は、原告に対し、平成二年六月二九日付けで指定職俸給表五号俸に発令すべき義務のあることを確認する。

二  被告人事院(以下「人事院」という。)は、原告に対し、平成二年六月二九日付けで指定職俸給表五号俸に指定すべき義務のあることを確認する。

三  被告人事院事務総長(以下「人事院事務総長」という。)が原告の平成三年一一月一一日付けの行政措置要求に対してした平成四年三月二七日付けの却下決定を取り消す。

四  被告国は、原告に対し、金四八三万三四七八円及びこれに対する平成五年一二月一六日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

一  当事者間に争いのない事実等

1  原告は、昭和三二年度の国家公務員採用上級職試験に合格して、昭和三三年四月に国税庁に採用された一般職の国家公務員であり、平成二年六月二九日付けで関東信越国税不服審判所長(首席国税審判官)(以下「関信不服審判所長」という。)に任命された。

右任命時点において、原告は行政職俸給表(一)の一一級一四号俸を支給されており、平成三年四月以降は同級一五号俸を支給されるようになったが、関信不服審判所長の職にある間、原告に指定職俸給表は適用されなかった。

2  原告は、平成三年六月六日、人事院に対し、関信不服審判所長に就任した以上、指定職に指定されるべきであるとして、一般職の職員の給与等に関する法律(以下「給与法」という。)二一条に基づく審査の申立て(以下「本件申立て」という。)をしたが、人事院事務総長は、同年七月一九日に右申立ては不適法であるとしてこれを却下した。原告は、同年一一月一一日、人事院に対し、関信不服審判所長に任命された原告については、その任命時期に遡って指定職俸給表五号俸に指定されるべきであるとして、国家公務員法(以下「国公法」という。)八六条に基づき、行政措置の要求(以下「本件措置要求」という。)をしたが、人事院より措置要求の受理権限の委任を受けた人事院事務総長は、平成四年三月二七日付けで、本件措置要求は違法であるとして、これを却下する旨の決定(以下「本件却下決定」という。)をした。

二  指定職俸給表の適用に関する規定等

指定職俸給表は、給与法六条別表第九により定められており、右表の適用については、人事院規則で定めるものに適用するとされているところ、人事院規則九―二第一五条は、その一号から六号までに事務次官、本省局長、大学学長等の官職を定め、七号から一〇号までに、六号までに定める官職以外の一定の官職を占める職員で、人事院指令で指定するものと定めて、これらの職員に指定職俸給表を適用する旨規定している。

関信不服審判所長は、同条一〇号の「その他前各号に掲げる職員に準ずる職員で指令で指定するもの」に該当する。

給与法八条一項は、人事院は、国家行政組織に関する法令の趣旨に従い、及び六条三項(指定職俸給表の適用を受ける職員を除いた職員の職務は、その複雑、困難及び責任の度に基づきこれを俸給表に定める職務の級に分類するものとし、その分類の基準となるべき標準的な職務の内容は、人事院が定めるとするもの)の規定に基づく分類の基準に適合するように、かつ、予算の範囲内で、職務の級の定数を設定し、又は改定することができる旨規定し、これを受けて人事院規則九―八第四条は、級別定数は、組織ごとに、かつ、一般会計及び特別会計ごとに、職名別に、人事院指令(以下「定数指令」という。)で定める旨規定している。そして、指定職俸給表に関連する職員数についても定数指令に計上されており、地方国税不服審判所長となる首席審判官の指定職俸給表の定数は六とされている。

三  争点

原告は、関信不服審判所長は指定職俸給表が適用される官職で、関信不服審判所長に任命された職員については、当然に指定職俸給表が適用されるべきであり、任命前に原告が支給されていた俸給を参照すれば、少なくとも指定職俸給表五号俸の指定及び発令がされるべきであるとして、人事院に対して、その指定義務の確認を、国税庁長官に対して、その発令義務の確認を求め(第一五五号事件)、また、人事院事務総長に対して、本件措置要求を不適法とした本件却下決定の取消しを求めており(第一一九号事件)、さらに、国税庁長官が原告につき指定職指定の申し出を行わなかったため、人事院が指定をしなかったものであるところ、指定職指定が裁量行為であるとしても国税庁長官の右行為には裁量権の逸脱ないし濫用がある違法なものであり、人事院は右違法な行為による違法状態を是正すべき義務があるのにこれを違法に怠ったものであり、原告はこれらの違法な行為により、右指定がされた場合の給与差額相当分の損害及び精神的損害を被ったとして、被告国に対して損害賠償を求めている(第四一号事件)。

国税庁長官及び人事院は、指定職指定及び発令は、裁量行為であるから、義務確認訴訟は不適法であるとして、訴えの却下を求めるとともに、指定職指定義務及び発令義務は存しないとして請求の棄却を求め、人事院事務総長及び被告国は、原告の請求は理由がないとして、請求の棄却を求めている。

したがって、本件の争点及びこれに対する当事者双方の主張の要旨は以下のとおりである。

1  国税庁長官及び人事院に対する義務確認訴訟が適法か否か等

(一) 人事院及び国税庁長官の主張

(1) 原告の人事院及び国税庁長官に対する訴えは、要するに、原告に対して指定職俸給表五号俸に指定すべき義務及び指定職俸給表五号俸に発令すべき義務のあることの確認を求める無名抗告訴訟であるところ、このような訴訟は、三権分立制度の建前から原則として許されず、行政庁が当該処分をなすべきことが法律上覊束されていて、裁量の余地がなく、かつ、事前の司法審査によらなければ当事者の権利救済が得られず、回復し難い損害を及ぼすような緊急の必要性があると認められ、しかも、他に適当な救済手段がない場合に限って、例外的に許されるものと解される。

(2) 前記二のとおり、指定職俸給表が適用される職員には、事務次官、本省局長等、その職員が就く官職の職務と責任から、人事院規則九―二に基づき、当然に指定職俸給表が適用される職員と、同規則に基づき、個別の人事院指令で指定されることにより指定職俸給表が適用される職員とがあり、関信不服審判所長の官職は、後者の個別指令により指定職俸給表が適用される官職(以下「指定職適用可能官職」という。)に当たる。

なお、前記二のとおり、人事院の定数指令は、本来、指定職俸給表の適用に関し具体的効力をもつものではないが、各省庁において、昇格等の運用に当たり、指定職俸給表が適用される職員を含む定員内職員すべてについて俸給表別、職名別、職務の級別の定員数を把握する必要があること、指定職適用可能官職について、個別指令が発せられない場合は、当該職員につき行政職俸給表(一)等を適用することになるが、その場合には、該当する俸給表にその職名で新たに級別定数を設定する必要があり、これを定数指令の中で措置しておく必要があること等の理由から、定数指令においては、職名別に、指定職俸給表適用職員数及び指定職俸給表適用可能職員数を併せて計上しているところである。しかしながら、定数指令は、個々の職員について指定職俸給表の適用をするための人事院規則九―二に基づく指令とは別のものであるし、定数指令は、指定職としての運用可能数の上限を示しているものにすぎないから、定数指令上、指定職の定数が計上されている国税不服審判所長(首席審判官)の官職に在職する職員であっても、当然に指定職俸給表の適用を受けるものではなく、指定職適用可能官職である以上、指定職俸給表の適用を受けるためには、人事院規則九―二に基づく指令により指定されることが必要となるのである。

そして、指定職適用可能官職に就く職員につき、実際に指定職俸給表を適用するかどうかの判断に当たっては、原則として、採用から退職までを全体として管理するいわゆる終身雇用的人事管理を行う中で、職員の勤務実績、経験等の人的要素や各省庁の人事計画を踏まえ、当該職員に対して今後どのような人事を行い処遇していくかという点を十分考慮の上、個別に指定職俸給表の適用の適否が判断されることになる。その結果、各任命権者において、指定職俸給表の適用を適当と判断した場合には、人事院に対して申し出を行い、人事院において、当該官職の職務の内容を確認し、他省庁との人事運用のバランスを考慮して個別に指定することとされており、右指定がされて初めて、任命権者が職員に指定職俸給表を適用するべく発令をすることになる。

したがって、指定職適用可能官職を占める職員に対して、指定職俸給表を適用するべく人事院指令により指定する行為ないし発令する行為は、いずれも国税庁長官及び人事院の裁量に属するものであり、法律上覊束された行為でないことは明らかであるから、指定義務ないし発令義務の確認を求める無名抗告訴訟は、その許容要件を欠き、不適法なものである。

(二) 原告の主張

(1) 義務確認訴訟等の無名抗告訴訟において、処分の一義的明確性が訴訟要件とされる理由は、行政庁の第一次的判断権を尊重する趣旨等からであるが、本件においては、国税庁長官は、人事院に対して原告を指定職に指定すべき旨の申し出を行わず、人事院は、指定職俸給表の適用について人事院指令で指定をしなかったものであるから、その第一次的判断はすでになされているというべきであり、処分の一義的明確性を訴訟要件とする必要はなく、本案の問題とすれば十分である。

また、義務確認訴訟の必要性についてみても、指定職適用可能官職に就任しても当然に指定職俸給表の適用がないとする現在の慣行を前提とする以上、指定職五号俸が適用されるべき原告の利益実現のためには、義務確認訴訟ないし義務づけ訴訟によるほかないから、本件における義務確認訴訟は必要性の要件を満たしているというべきである。

(2) 仮に処分の一義的明確性が訴訟要件となるとしても、以下のとおり、原告を指定職に指定し、指定職の発令をすべきことは一義的に明確であるから、義務確認訴訟は適法である。

すなわち、給与法は、職務の種類を分類して九種一七表の俸給表を定めており、職員につきどの俸給表を適用するかは、当該職員が任命された職種(官職)により当然に定まるところである。そして、指定職俸給表以外の各俸給表には、職務の複雑さと責任の度合いに基づき、職務の級と号俸が定められており、職務の級と号俸を決めるために任命権者の給与決定があるが、指定職俸給表については、地位の高い官職につき一官職一給与の理念を実現すべく制定されたものであるから、職務の級はなく、号俸だけが定められており、その号俸は人事院規則及び指令で定めることとなっているので、任命権者の給与決定はない。

そして、関信不服審判所長は、昭和五〇年度に指定職適用可能官職とされ、昭和五一年四月以降、関信不服審判所長に就任した職員につき指定職の指定がなされたものであるから、関信不服審判所長の官職は、指定職が適用されるべき官職であり、右官職に就く者については、原則としてその属人的要素を考慮することなく、指定職俸給表が適用されるべきである。

また、定数指令上、一二の地方国税不服審判所長(首席国税審判官)のうち、六が指定職適用可能官職とされ、その組織規模等からみて、関信不服審判所長は当然に右六の中に含まれることは明らかであるところ、定数指令において指定職適用可能官職とされた以上、指定職俸給表が適用された場合の給与額の予算配分がなされるのであるから、原則として、指定職として指定されるべきであることは明らかである。

そして、指定職俸給表中の号俸については、原告は、関信不服審判所長就任当時、行政職俸給表(一)の一一級一四号俸を支給されていたところ、指定職俸給表四号俸では、降給となるので、それより上の指定職俸給表五号俸に指定されるべきことは明らかである。

したがって、人事院及び国税庁長官に、原告に指定職俸給表五号俸の指定をすべき義務及びその発令をすべき義務があることは一義的に明確である。

2  本件措置要求の適法性

(一) 人事院事務総長の主張

職員の行った国公法八六条に定める職員の勤務条件に関する措置要求が適法なものとして受理されるためには、その要求事項が勤務条件に関するものであることが必要であるが、この勤務条件とは、国公法一〇八条の五第一項の職員団体との交渉の対象となる勤務条件と同義であり、国の事務の管理及び運営に関する事項(以下「管理運営事項」という。)は措置要求の対象とすることはできない。すなわち、国公法上の措置要求は、同法が職員に対し労働組合法の適用を排除し、団体協約締結権、争議権等を認めなかったことの代償措置として、職員の勤務条件の適正を保障するために、職員の勤務条件について人事院の判定を要求し得ることを認めたものであり、措置要求の対象となる勤務条件に係る事項とは、団体協約締結権や争議権の対象となり得る事項と同一であると解されることになる。

ところで、本件措置要求の要求事項は、関信不服審判所長に任命された時点に遡って、指定職(五号俸以上)とすることというものであるところ、関信不服審判所長に就いた職員に指定職俸給表を適用するかどうかは、人事院及び任命権者の権限と責任に基づき個別に判断、決定すべき管理運営事項に該当し、原告の要求事項は、右管理運営事項に関する個別具体的な人事権の行使を求めるものであるから、措置要求の対象となり得ないものである。

(二) 原告の主張

国公法八六条は、俸給、給与その他あらゆる勤務条件に関する措置要求を定めており、原告の本件措置要求は、俸給に関するものであるから、適法な措置要求であることは明らかである。

給与行政上の権限の個別具体的な行使を求めるものであっても、それが違法又は著しく不当なものについては、これに対する救済が図られなければならず、行政措置要求制度が職員団体を通じての団体的要求のみならず、そのような場合の個別的救済を求めることを許容していると解されることからも、その是正を求める措置要求をなし得るものというべきである。

また、勤務条件に関する事項と管理運営事項とは相容れないものではなく、管理運営事項に関するものでも、勤務条件に関する事項に該当するものもあり、個別具体的人事権の行使であっても、個別的救済を必要とするものがあり、裁量権の濫用等の違法を理由とする要求については、審理をしなければ実体が判明しないことから、単に個別的具体的人事権の行使に関するものは管理運営事項に該当するというだけで措置要求を不適法とすることは違法である。

そして、措置要求に対する実際の取扱例をみても、給与行政上の権限の個別具体的行使に関する措置要求であっても、これを受理した上、実質審理を行っているものが多数あることからすれば、本件措置要求を却下した本件却下決定は違法である。

3  国税庁長官の裁量権の逸脱濫用及び人事院の義務懈怠の有無

(一) 原告の主張

国税庁長官及び人事院による指定職俸給表の適用に関する申し出及び指定が裁量行為であるとしても、原告につき指定職俸給表五号俸適用の申し出ないしその指定をしなかったことは裁量権の逸脱濫用及び義務懈怠に当たり違法である。

すなわち、国税庁においては、指定職適用可能官職に就いた職員が、大蔵本省採用者(以下「本省採用者」という。)か国税庁採用者かにより、前者については指定職の指定に関する申し出をし、後者についてはこれをしないという合理性を欠く差別的運用を行っており、国税庁長官が、関信不服審判所長に就いた原告について、指定職の指定に関する申し出をしなかったのは、原告が国税庁採用者であることによるものであり、裁量権の逸脱ないし濫用に当たる。

そして、指定職俸給表の適用については、人事院が責任を負う事項であり、指定の申し出をしないことは、右のとおり違法なものであるから、前記のとおり指定職指定義務があり、また、原告の本件申立て及び本件措置要求等により右違法状態を知り得た人事院にはこれを是正すべき法的義務があるところ、人事院はこれを怠った違法がある。

(二) 被告国、国税庁長官及び人事院の主張

(1) 国税庁においては、指定職俸給表の適用に当たっては、官職の職務内容、職員の勤務実績や経験等の人的要素、人事計画等を踏まえて、個別に適否を判断しているところであるが、指定職適用可能官職は、組織における相当高い官職であり、総じて最終官職となり得るものである一方、指定職適用可能官職に就くことなく停職する優秀な職員も多数いることを考慮して、一一級官職に在職する優秀な職員をも含めた幹部職員全体の中で指定職俸給表の適用がふさわしいと判断された者に限り、指定職俸給表を適用することとしている。

そして、昭和二八年から三〇年にかけての国税庁上級職採用者の大量採用期に入庁した職員が退職し、指定職適用可能官職への任用が安定的なものとなった昭和六三年以降については、本庁部長及び国税局長に就く職員については、相当の重きを置いて判断することとし、経験年数等一定の基準を満たす場合には、原則として指定職俸給表を適用することとしている一方、関東信越以下四つの地方国税不服審判所長については、国税局との組織規模の相違等から、当該官職を占める職員を個々にみて指定職とすることがふさわしいと判断される場合に限り、指定職俸給表を適用することとしており、経験、能力等において、本庁部長又は国税局長に就く職員と比較して、これと同等又はそれ以上の評価をなし得るかどうかにより判断することとしている。

原告について、指定職俸給表の適用の申し出がされなかったのは、原告が本庁部長又は国税局長に就く者と比較して同等又はそれ以上の評価をなし得るには至らなかったからであり、国税庁採用者を本省採用者より不当に不利に処遇するというような差別的人事方針によるものではなく、裁量の範囲内の行為であり、人事院が右申し出がなかったことにより原告を指定職に指定しなかった行為にも違法性はない。

第三争点に対する判断

一  争点1について

1  人事院及び国税庁長官に対して、指定職指定義務及び指定職発令義務の確認を求める義務確認訴訟は、いわゆる無名抗告訴訟であるところ、このような訴訟は、三権分立制度の建前や、取消訴訟を中心として抗告訴訟を定めている行政事件訴訟法の趣旨からすれば、行政庁が当該処分をなすべきことが法律上覊束されていて、裁量の余地がないなど行政庁の第一次判断権を留保することが必ずしも重要でないと認められ、かつ、事前の司法審査によらなければ当事者の権利救済が得られず、回復し難い損害を及ぼすような緊急の必要性があると認められ、しかも、他に適当な救済手段がない場合に限って、許容される訴えであると解される。

原告は、この点につき、本件においては、原告に指定職俸給表を適用しないとの行政庁の第一次的判断がすでになされているから、行政庁の第一次判断権を尊重するための要件は必要でなく、なすべき処分の一義的明確性は訴訟要件には当たらない旨主張する。しかしながら、行政庁が一定の公権力の行使をしない状態があることをもって、直ちに、行政庁の裁量的判断権の行使の可能性がなくなったということはできないし、そのような公権力の不行使状態があれば、なすべき処分の一義的明確性は要件にならないと解するとすれば、多くの義務確認訴訟が、そうした要件を必要とせずに許容されることになるが、そのような事態を行政事件訴訟法が予定しているとは解し難いから、原告の主張は採用できないというべきである。

2  そこで、さらに、原告に指定職俸給表を適用することが、法律上覊束され、裁量の余地がない等一義的に明白か否かについて検討する(なお、証拠により認定した事実については、適宜文中に証拠を掲記する。)。

(一) 指定職俸給表の制度は、職責が極めて高い職員について、経験年数や扶養親族の状況等の属人的な要素にかかわりなく、俸給月額によって当該官職に係る給与を包括的に評価し、官職に応じて一定の俸給額を支給するものであるところ、前記第二の二記載のとおり、指定職俸給表の適用については、人事院規則九―二第一五条において定められており、同条の規定によれば、その一号から六号までに規定する官職を占める職員については、当然に指定職俸給表が適用されることとなり、七号から一〇号までに規定する官職を占める職員については、指令で指定する者に指定職俸給表が適用されることとなる。関信不服審判所長(首席国税審判官)は、昭和五〇年度に指定職俸給表の適用が可能となった同条一〇号に該当する指定職適用可能官職であり、関信不服審判所長に就任した職員に指定職俸給表が適用されるためには、人事院指令による指定が必要となるが、そのような指定は、個々の職員についての個別の指令によりなされている(乙二号証)。

そして、指定職俸給表が、その内容からみて、行政職俸給表(一)等の各俸給表の上位の俸給表と位置づけられていることからすれば、指定職適用可能官職については、行政職俸給表(一)の一一級等と指定職のいずれの評価も可能な官職というべきであり(定数指令の備考欄に、指定職俸給表の適用を受ける職員の数が当該職名について掲げられている数に満たない場合は、その数に満たない数と同数の定数が行政職俸給表(一)の一一級等に設定されるものとする旨規定されている(乙四号証)ことからも、そのことは明らかである。)、そのような官職につき、指定職俸給表を適用するか、行政職俸給表(一)の一一級等とするかは、二以上の職務の級にまたがる一一級以下の官職に就く職員につきいずれの職務の級とするかと同様、その者の経験年数、職歴及び部内での均衡等の属人的要素等を考慮して決定されることになる。すなわち、完全な職階制が実現されておらず、終身雇用的な人事管理が行われている現行人事行政の下においては、そうした属人的要素等を考慮する必要性があることになるといわざるを得ない。

したがって、指定職適用可能官職に就く職員につき、実際に指定職俸給表を適用するかどうかの判断に当たっては、終身雇用的人事管理の下で、職員の勤務実績、経験等の人的要素や各省庁の人事計画を踏まえ、当該職員に対して今後どのような人事を行い処遇していくかという点を考慮した上で、個別に指定職俸給表の適用の適否が判断されることになる。

そして、人事院の右指定の手続については、人事院規則、通達等による明文上の規定はなく、右手続については人事院の裁量にゆだねられていると解されるところ、指定職俸給表の適用の適否の判断が右のようなものであることから、そのような判断は、個々の職員の属人的要素等について把握し、当該省庁の人事の実情を熟知している各任命権者において、まず第一になされることが適当であることから、現実の運用としては、各任命権者が当該職員について指定職俸給表の適用を適当と判断した場合には、人事院に対して申し出を行い、人事院において、当該官職の職務の内容を確認し、他省庁との人事運用のバランスを考慮して個別に指定することとされており、右指定がされて初めて、任命権者が、職員に指定職俸給表を適用するべく発令をすることとされている。

そうすると、指定職適用可能官職を占める職員に対して、指定職俸給表を適用するべく人事院指令により指定する行為ないし発令する行為は、いずれも国税庁長官及び人事院の裁量に属するものであり、法律上覊束された行為でないことは明らかである。

(二) 原告は、職員につき、いずれの俸給表を適用するかは、人事院規則、人事院指令により、その適用範囲が官職又は職種をもって定められており、職員が就任した官職によって当然に定まるものであり、任命権者の給与決定等の処分を何ら必要としない旨主張する。

なるほど、指定職俸給表以外の行政職、教育職、医療職等の各種俸給表の適用を受ける職務は、その業務内容の違いが縦割りの職種の違いとして認識できるものであるが、指定職俸給表は、その適用範囲からみれば、各職種の高位にある官職で、その職責の度合いが、他の俸給表の最上位の職責より更に重いものについて適用されるものであり、その点において、指定職俸給表とそれ以外の俸給表は質的に異なり、むしろ指定職俸給表は他の各種の俸給表の上位にある俸給表として設定されたものというべきであるから、縦割りの職種の違いが認識できる他の俸給表の適用のように外形的な職種の分類によって、その適用を明確化することは困難であるといわざるを得ない。

この点につき、原告は、さらに、指定職俸給表は一官職一給与制の俸給表であることからも、指定職俸給表の適用のための人事院指令による指定は、官職を指定すべきである旨主張する。

確かに、甲二ないし九号証によれば、指定職俸給表が創設された経緯は、事務次官や大学の学長といった各組織の最高位にあるものの給与について、職階制的運用の実現のため、一官職一給与制をとったものであるが、同じく指定職俸給表に規定された官職の中でも、官職評価の低い官職については、指定職俸給表が当然に適用される官職に準ずるもの、すなわち、一官職一給与制という厳密な職階制的運用がなされる官職に準ずるものとして、厳密な一官職一給与制をとることなく、人事院指令による指定によって初めて指定職俸給表が適用されることとしたというべきであり、給与法六条二項が俸給表は「職員」に適用されるとし、同法別表第九の備考欄には、「この表は、事務次官、外局の長、大学の学長、試験所又は研究所の長、病院又は療養所の長その他の官職を占める職員で人事院規則で定めるものに適用する。」と規定されており、人事院規則九―二第一五条一〇号も、その規定の仕方からみれば、指定職俸給表の適用について、指令により「職員」を指定する旨規定しているとみられること等に照らせば、右指定が官職でなく、個々の職員につき個別的になされることが給与法等の趣旨に反するものとはいえないというべきである。

また、原告は、定数指令上、一二の地方国税不服審判所長のうち、六が指定職適用可能官職とされ、その組織規模等からみて、関信不服審判所長は当然に右六の中に含まれることは明らかであるところ、定数指令上指定職適用可能官職とされた以上、指定職俸給表が適用された場合の給与額の予算配分がなされるのであるから、原則として、指定職として指定されるべきである旨主張する。

なるほど、乙四号証によれば、昭和六〇年一二月二一日の定数指令において、国税不服審判所の首席審判官については、行政職俸給表(一)の一一級の定数が五、一〇級の定数が一、指定職俸給表の定数が六と定められており、証人三浦正顯の証言及び乙六号証によれば、地方国税不服審判所において、職員数、事務量等の規模からすれば、関東信越国税不服審判所は、東京及び大阪国税不服審判所に次ぐものであり、関信不服審判所長は、東京国税不服審判所長に次いで、昭和五〇年度に大阪国税不服審判所長とともに指定職適用可能官職とされたものであることが認められる。

しかしながら、定数指令は、個々の職員について指定職俸給表を適用するための人事院規則九―二に基づく指令とは別のものであり、定数指令上、指定職の定数が計上されている国税不服審判所長(首席審判官)の官職に在職する職員であっても、それは指定職俸給表の適用が可能になるということにすぎず、指定職適用可能官職である以上、指定職俸給表の適用を受けるためには、人事院規則九―二に基づく指令により指定されることが必要となるというべきである。そして、定数指令は、指定職としての運用可能数の上限を示しているにすぎず、予算書上、指定職適用可能官職について指定職俸給表が適用された場合の所要額が計上されているとしても、このことによって、当然に指定職適用可能官職に就いた職員について指定職俸給表が適用されるものでないことは、定数指令の備考欄に、指定職俸給表の適用を受ける職員の数が当該職名について掲げられている数に満たない場合は、その数に満たない数と同数の定数が行政職俸給表(一)の一一級等に設定されるものとする旨規定されていることに照らしても、明らかであるといわざるを得ない。

したがって、原告の主張はいずれも理由がない。

3  以上によれば、国税庁長官及び人事院に対して、指定義務ないし発令義務の確認を求める訴えは、その許容要件を欠き、不適法なものといわざるを得ない。

二  争点2について

国公法八六条が、国家公務員に対し、勤務条件について人事院に措置要求することを認めた趣旨は、同法が職員に対し労働組合法の適用を排除し、団体協約締結権、争議権等を認めなかったことの代償措置として、職員の勤務条件の適正を保障するために、職員の勤務条件について人事院の判定を要求し得ることを認めたものである。したがって、措置要求の対象となる勤務条件に係る事項とは、団体協約締結権や争議権の対象となり得る事項、すなわち、国公法一〇八条の五第一項の職員団体との交渉の対象となる勤務条件と同一であると解されることになる。そうすると、管理運営事項は、交渉の対象となり得ないから(国公法一〇八条の五第三項)、措置要求の対象とすることもできないというべきである。

そして、本件措置要求の要求事項は、原告について、関信不服審判所長に任命された時点に遡って、指定職(五号俸以上)とすることというものであるところ、関信不服審判所長に就いた職員に指定職俸給表を適用するかどうかは、前記説示のとおり、人事院及び任命権者の権限と責任に基づき個別に判断、決定されるべき管理運営事項に該当し、原告の要求事項は、右管理運営事項に関する個別具体的な人事権の行使を求めるものというべきであるから、措置要求の対象となり得ないものと解される。

原告は、本件措置要求が、俸給に関するものであるから国公法八六条の勤務条件に該当する、個別具体的な人事権の行使にかかわる事項でも、それが違法であり、その違法が裁量権濫用等を理由とするものである場合は実体審理を要するから受理されるべきであるなどと主張するが、個別具体的人事権の行使に係る管理運営事項については、措置要求の対象とならないと解すべきことは前示のとおりであるから、原告の主張は理由がない。なお、原告は、甲二五号証における人事院の実際の取扱いからみても、個別具体的な人事権の行使に関する措置要求も受理されている旨主張するが、甲二五号証からは、右受理事例が、勤務条件を定める基準にかかわるものか、個別具体的な人事権の行使にかかわるものかは、必ずしも明らかではなく、これをもって勤務条件を定める基準にかかわらない個別具体的な人事権の行使にかかわる措置要求についても受理されているということはできないし、そのような受理事例が仮にあったとしても、そのことによって、直ちに、個別具体的な人事権の行使に係る管理運営事項が、措置要求の対象となるものということはできない。

したがって、原告の主張は理由がないというべきであり、本件措置要求を措置要求の対象となり得ないものを対象とした不適法なものであるとして却下した本件却下決定は、適法である。

三  争点3について

1  当事者間に争いのない事実に加え、証人三浦正顯の証言及び乙五号証並びに弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。

(一) 国税庁においては、指定職俸給表の適用に当たっては、官職の職務内容、職員の勤務実績や経験等の人的要素、人事計画等を踏まえて、個別にその適否を判断しているところであるが、指定職適用可能官職は、組織における相当高い官職であり、総じて最終官職となり得るものである一方、指定職適用可能官職に就くことなく停職する優秀な職員も多数いることを考慮して、一一級官職に在職する優秀な職員をも含めた幹部職員全体の中で、指定職俸給表の適用がふさわしいと判断された者に限り、指定職俸給表を適用することとしている。

なお、国税庁に属する官職のうち、指定職適用可能官職とされているものとしては、国税庁本庁の次長、部長及び国税局長の全部、国税不服審判所本部の次長、地方国税不服審判所長の一部(東京、大阪、関東信越、名古屋、広島及び福岡国税不服審判所長)等がある(なお、本庁次長及び国税不服審判所本部の次長には、大蔵省からの出向者が通常就いており、東京及び大阪国税不服審判所長には、判事又は検事の職歴を有する者が法務省からの出向又は併任の形で就いている。)。

ところで、昭和二八年から三〇年にかけては、国税庁上級職採用者の大量採用期であり、このころに入庁した大量の職員が上位の官職に就くようになると、それらの職員につき、指定職の者とそうでない者との差をつける人事運用が困難であったことから、指定職俸給表の適用はむしろ慎重に行われ、指定職俸給表が適用されたのは、結局は本庁部長に就いた者に限られていた。大量採用期に入庁した職員が退職した後の指定職適用可能官職の運用については、従前からその見直しが検討されており、大量採用期入庁職員が退職し、指定職適用可能官職への任用が安定的なものとなった昭和六三年以降については、本庁部長及び国税局長に就く職員については、相当の重きを置いて判断することとし、経験年数等一定の基準を満たす場合には、原則として指定職俸給表を適用することとしている一方、関東信越以下四つの地方国税不服審判所長については、当該官職を占める職員を個々にみて指定職とすることがふさわしいと判断される場合に限り、指定職俸給表を適用することとしており、経験、能力等において、本庁部長又は国税局長に就く職員と比較して、これと同等又はそれ以上の評価をなし得るかどうかにより判断するという指定職適用可能官職についての運用の基準が設けられ、以後は、右基準に従ってその取扱いがなされている。そして、このような基準は、本庁部長は国税局長経験者によって占められるのが通例であり、国税局長は、多数の職員を管理、監督することを初め高い行政手腕を必要とすることから、活用可能な人材の中でも特に能力の高く、適性のある職員の中から任用されており、地方国税不服審判所長については、組織規模において国税局と格段に差があること、定数指令上も一一の国税局長がすべて指定職適用可能官職とされているのに対し、一二の地方国税不服審判所長の中では指定職適用可能官職とされているのは六であること等から、国税局長に任用される職員に準ずる能力を有し、その職務に適性のある人材が任用されていることを考慮して設けられたものである。

そして、原告については、その経歴、経験、能力等の諸要素を検討して、関信不服審判所長に任用されたが、その際の検討において、本庁部長又は国税局長に就く者と比較して同等又はそれ以上の評価をなし得るには至らないとして、指定職俸給表の適用の申し出がなされなかった。

(二) 国税庁に属する官職には、国税庁採用者に加え、有能な人材を求める観点等から、本省採用者を初め各省庁の職員が出向又は併任の形で任用されている。出向者が占めていた官職について異動があったときは、通常は出向元から後任者の推薦がなされるが、こうした出向者等を受け入れるに当たっては、受け入れる職員の能力、適性につき出向元から説明を受けるとともに、国税庁の人事当局においても出向者の経歴等から当該官職にふさわしいかどうかを検討して、その受け入れを判断している。また、給与についても出向元の人事当局からその職員の人事計画に基づいた給与の適用についての意向が示されるところ、国税庁の人事当局においてその職員につきその給与を適用することが適当であるかどうかについても検討し、いずれもが満たされると判断された場合に、その出向者を受け入れ、当該給与を適用することとしている。

給与の適用についての判断は、出向元の省庁が国税庁とは組織、採用者数、退職年齢等を異にし、国税庁とは異なる人事計画を有しているため、一律に国税庁と同一の基準で判断できない事情もあり、出向元がその官職にふさわしい人材を推薦することを踏まえて、出向元の人事当局の意向を尊重して判断されるのが通常であるが、指定職については、指定職適用可能官職が組織における相当に高い官職であり、最終官職となり得るものであることから、国税庁採用者との均衡も配慮して判断されている。もっとも、指定職適用可能官職の運用について、前記のような基準がとられることとなった昭和六三年以前の取扱いについては、国税庁がかっては大蔵省の内部部局であり、指定職適用可能官職に就くのがほとんど大蔵省からの出向者であった経緯や、国税庁採用者が指定職適用可能官職に就くようになった以降も大蔵省からの出向者が比較的規模の大きい国税局長以上の官職に就いていたこと、一方では、国税庁採用者については大量採用期に入庁した職員を対象としたため、人事運用上、指定職俸給表の適用を慎重にせざるを得なかったこと等の事情により、大蔵省からの出向者については大蔵省の意向を尊重して判断される傾向にあったこともあってか、地方国税不服審判所長に就いた職員で、国税庁採用者に指定職俸給表が適用されたことはなく、本省採用者に指定職俸給表が適用されなかったことはなかったが、前記のような運用の基準がとられるようになった昭和六三年以降は、出向者についても同様に取り扱われるようになった。

なお、昭和六三年以降に、指定職適用可能官職である地方国税不服審判所長となった大蔵省からの出向者は一名のみであるが、この職員については、本庁部長又は国税局長に就く者と比較して同等又はそれ以上の評価をなし得るとされて指定職俸給表が適用され、その後、この職員は、通例国税局長経験者が就いている国税不服審判所本部の次長に転出した。

2  以上の事実によれば、原告につき指定職俸給表の適用の申し出がなされなかったのは、前記の指定職適用可能官職についての運用の基準に照らして、原告が本庁部長又は国税局長に就く者と比較して同等又はそれ以上の評価をなし得るには至らなかったと判断されたからであり、それが専ら国税庁採用者を本省採用者より不当に不利に処遇するというような差別的人事方針によるものであったと認めることはできない。確かに、地方国税不服審判所長に就いた職員で、国税庁採用者である者に指定職俸給表が適用されたことはなく、本省採用者に指定職俸給表が適用されなかったことはないことは前記認定のとおりであるが、前記のとおり、出向者については、出向元が後任者の推薦という形で、相応の能力、適格を有するものを推薦し、受入れ側としては、そのような能力、適格を有すると判断された場合に、これを受け入れていること、前記のような運用の基準が適用される以前においては、大量採用期に入庁した国税庁採用者を対象とする人事管理上、むしろ指定職俸給表の適用を自制的に運用する傾向にあったこと等から、結果として、そのような指定職俸給表の運用状況になったということができるのであって、少なくとも昭和六三年以降の異動に関しては、前記運用の基準が設けられ、本省採用者も国税庁採用者と同様に右基準によって取り扱われているのであるから、地方国税不服審判所長に就いた職員で、国税庁採用者である者に指定職俸給表が適用されたことはなく、本省採用者に指定職俸給表が適用されなかったことはないという事実をもって、原告につき指定職俸給表の適用の申し出がなされなかったことが、差別的人事方針に基づくものということはできないというべきである。

そうすると、国税庁長官が、原告についてその経験、能力等を検討して指定職俸給表適用の申し出をしなかったことは、その裁量の範囲内の適法な行為であるというべきであり、人事院が右申し出がなかったことにより原告を指定職に指定しなかった行為も適法といわざるを得ない。

原告は、前記のような指定職適用可能官職についての運用の基準を設ける必要はなく、そのような基準は、結局、国税庁採用者が就くことが多い地方国税不服審判所長に指定職俸給表を適用しないということであり、差別的人事方針の現実に即して作成されたものにすぎない旨主張するが、右基準は、地方国税不服審判所長について指定職俸給表の適用自体を否定するものではなく、また、組織規模等の点から、国税局長と地方国税不服審判所長の指定職俸給表の適用の取り扱いに差異を設けること自体が全く合理性を欠くものといえない以上、右運用の基準に従って、指定職俸給表の適用についての申し出をなすことが、裁量権の逸脱濫用に当たるということはできない。

3  また、人事院が違法状態の是正義務を怠ったという原告の主張は、原告に指定職俸給表を適用しないことが裁量権の逸脱濫用として違法であることを前提としているものであるから、その前提を欠き理由がないことになる。

四  結論

以上のとおり、本件訴えのうち、人事院及び国税庁長官に対して、指定職指定義務及び指定職発令義務の確認を求める訴えは、いずれも不適法であるから、これを却下することとし、人事院事務総長に対する本件却下決定の取消請求は、本件却下決定は適法であるから、その理由がなく、被告国に対する損害賠償請求は、国税庁長官及び人事院の違法行為があったとはいえず、その理由がないから、いずれの請求もこれを棄却することとする。

(裁判官 秋山壽延 竹田光広 森田浩美)

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